2ちゃんねる(2ch)の経営権をめぐる訴訟で、ひろゆき氏が勝訴

2018年6月

2ちゃんねる(2ch)の経営権をめぐり、 創業者の西村ひろゆき氏が、 米国人のジム・ワトキンス氏に経営を乗っ取られたとして提訴した訴訟で、 東京地裁は2018年6月22日、ひろゆき氏勝訴の判決を下しました。

東京地裁の判決文

原告のひろゆき氏が運営するサイト(2ch.sc)側が公表した判決の内容(一部)は、以下の通りです。

平成26年(ワ)第31166号 現状回復請求事件

平成30年6月22日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 口頭弁論終決日 平成30年4月27日

主文

1:被告は、原告に対し、112万8000米ドル及びうち26万米ドルについて平成27年7月7日から支払済みまで、うち5万米ドルについて平成28年9月6日から支払済みまで、うち81万8000米ドルについて平成29年12月9日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2:訴訟費用は被告の負担とする。
3:この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

第5~当裁判所の判断
1:争点1(国際裁判管轄)について

原告の本件請求につき、日本に国際裁判管轄が認められるかについては、本件業務寄託契約の内容、2ちゃんねるに関する原告と被告の関与の状況等を踏まえて判断すべきであることから、以下、これらの点について検討する。

(1)本件業務委託契約について
前記前提事実、証拠(甲7ないし10の2、12、13、乙5、6、7、の1・2、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、平成14年2月、原告と被告との間で本件業務委託契約が締結されたことが認められる。
すなわち、原告代表者は、平成14年2月、被告との間で、2ちゃんねるのサーバーを月額2万米ドルで使用する契約を締結し、その後もサーバー管理の業務委託料として同額を送金していた旨供述するところ、このような原告代表者の供述は、①原告は、被告に対し、少なくとも平成15年から平成26年2月まで、1年間で2000万円以上の送金を行っていたことが認められ(甲7ないし10の2、12)、そのような多額の送金を断続的に行うからには何らかの債権債務関係が生じていると推認されること、②少なくとも、平成26年2月19日までは、原告ないし原告代表者が2ちゃんねるの運営に関わっていたこと(甲13、原告代表者)及び被告がサーバーの運営・管理を業務内容とする会社であること(争いない)に照らせば、原告の送金の趣旨がサーバーの管理に関するものであると考えるのが最も合理的であるといえること、③原告から被告への1回あたりの送金額が最低額として200万円余りであり(甲12)、当該送金について被告から不足であるなどの連絡がされたといった事情が見られないことに照らせば、本来の1回あたりの送金すべき金額が2万米ドルであると見るのが合理的であるといえることとよく合致しており、信用性が高いということができる。
これに対し、被告は、本件業務委託契約の成立を否認するとともに、2ちゃんねるは原告と被告の共同事業であると主張する。
しかし、原被告間の契約自体が成立していないとの主張については、上記に照らせば考え難いものである。
また原告と被告の共同事業であるとの主張については、2ちゃんねるのドメイン登録に関し、被告が運営面に関する連絡先及び登録者として記載されていることは認められる(乙5、6)ものの、被告から、2ちゃんねるに関し、サーバー管理以外に、具体的にどのような業務を行っていたのかについて何ら主張立証がされておらず、上記記載が存在するにとどまることに、上記被告の対応を併せ鑑みれば、平成26年2月19日以前から、2ちゃんねるの運営について原告と被告の共同事業であったことがうかがわれるということはできず、本件業務委託契約の成立の主張立証責任が原告にあることを踏まえても、被告の上記主張は、上記結論を左右するものではない。

(2)原告と被告の関係について
次に本件業務委託契約を含め、2ちゃんねるに関する原告と被告の関与の状況について見るに、証拠(甲12、13、原告代表者)によれば、以下の事実が認められる。

原告代表者の供述については、上記(1)に関する供述の信用性が高いこと、それ以外の経緯についても相当程度具体的であり、反対尋問を経ても、その内容に合理性があるといえることから、下記認定に係る部分についても十分信用できるというべきである。

ア:原告代表者は、平成11年ごろ、2ちゃんねるを開設し、運営していた。
原告代表者は、平成12年頃、訴外株式会社ゼロ(以下「ゼロ」という。)の中尾嘉宏(以下「中尾」という。)から、ゼロの広告を2ちゃんねるに掲載したいとの連絡を受け、その頃、ゼロが被告の販売代理店をしていたこともあり、ゼロの広告を掲載するのと引き換えに、2ちゃんねるのサーバーについて、被告のサーバーを無料で使用することができることとなった。
被告のサーバーを使うようになった当初、被告の出資者、経営者は、Jim Watkins(以下「ジム」という。」、中尾及び中尾の当時の妻であった。

イ:中尾は、平成14年頃、原告代表者に対し、被告のサーバーを有料にしたいとの申出があり、原告が被告に対して月額2万米ドルを支払って彼告の提供するサーバーを借りるという形とする契約を原被告間で締結した。
その後、上記契納が本件業務委託契約となり、原告が被告に対し送金を行っていた。

ウ:中尾は、その後被告の経営から離れ、ジムが被告の経営を行うようになった。
ジムは、原告に対して、姉が病気になったので金がいるとか、事業が上手くいかなくなって金がいるなどと申し向け、本件業務委託契約の業務委託料の前払いを求めるにようになった。ただし、その時期は必ずしも明確ではない。
ジムが前払いを要求するようになった後、ジムは、原告に対し、送金しないならサーバーを止めると言い出すようになった。
原告は、ジムの要求に応じ、被告に対し、平成23年2月以降、前記第4の3〔原告の主張〕(2)アないしエ記載の送金をした。

エ:被告は、平成26年2月19日、原告が2ちゃんねるのサーバーにアクセスできないようにし、披告自ら、2ちゃんねるの運営をするようになり、以後、2ちゃんねるの広告収入が被告に入るようになった。
原吉代表者は、2ちゃんねるのサーバーにアクセスできなくなったとして、ジムに連絡したところ、ジムは、原告代表者に対し、5万米ドルを支払えばアクセスできるようにすると述べた。
原告は、同月21日、被告に対し、5万米ドルを送金したが、その後も原告が2ちゃんねるのサーバーにアクセスすることはできなかった。

(3)評価
上記(1)及び(2)で認定した事実関係に照らせば、2ちゃんねるは、平成26年2月19日までは、原告(少なくとも原告代表者)が主体となって運営されていたが、同日以降、被告によって、原告が関与することができなくなり、その代わりに、彼告を主体として運営されるようになったというべきである。
これに対し、被告は、少なくとも本件訴訟提起時点においては、2ちゃんねるを運営していたのは上記Race Queen,incであると主張するが、被告自身、原告と共同事業をしていたと主張しながら、別途上記企業が2ちゃんねるを運営していたとも主張し、その主張自体矛盾しており、被告の主張は採用できない。
それをおくとしても、確かに、証拠(乙4)によれば、2ちゃんねるの掲示板において、上記Race Queen,incが2ch.netのドメインの所有者である等の記蔵がされていることが認められるものの、当該記載から上記(1)及び(2)で認定した事実が否定されるものではないし、被告と上記Race Queen,incとの関係か本件訴訟上明らかでない以上、上記記載があることが直ちに被告の主体的な関与を否定するものとはいえない。したがって、いずれにしても被告の主張は採用できない。
そして、本件において、上記各事情が本件訴訟提起までの間に変更されたということは認められない。

以上、本件に顕れた各事情を踏まえると、被告は、原告の本件訴訟提起時点において、2ちゃんねるという日本国内で閲覧可能な日本語のサイトの運営主体であったということができ、そうすると、被告は、日本において事業を行う者であり、かつ、原告の本件請求は、被告の日本における業務に関するものであるということができる。
したがって、原告の本件請求については、民事訴訟法3条の3第1号や第3号後段により日本に国際裁判管轄があるといえるかはおくとしても、少なくとも、同法3条の3第5号により日本に国際裁判管轄があるというべきである。

2:争点2(本件業務委託契約の成立)について

前記1で認定したとおり、本件業務委託契約が成立したことが認められる。

3:争点3(披告の債務不履行)について

前記1で認定したとおり、少なくとも、平成23年2月以降、原告は、被告の要求に従い、本件業務委託契約に係る業務委託料について前倒しで支払っていたことが認められる。なお、原告が支払った金員について、原告が被告に対して送金する金銭が本件業務委託契約に係る業務委託料以外に存在するといった事情が見られず、かつ、過去に未払があったという事情も見られない以上、月額2万米ドルを超える支払については、将来の業務委託料を送金したと見るほかない。
そして、原告は、平成26年2月19日以降、2ちゃんねるのサーバーにアクセスできない状態となったところ、本件業務委託契約は、その締締の経緯及び内容に照らせば、原告が2ちゃんねるを運営することが当然の前提とされているといえるものであり、被告がそれを不可能とする措置を執った行為は、本件業務委託契約に関する披告の債務不履行に当たるとみることができる。
したがって、被告には、本件業務委託契約に係る債務不履行があったと認められる。

4:争点4(被告が本件業務委託契約解除による原状回復義務を負うか)について

前記前提事実のとおり、原告は、本件業務委託契約について、被告の債務不履行に基づく解除の意思表示をし、これが被告に到達しているところ、前記3のとおり、被告には本件業務委託契約について債務不履行が認められるから、当該解除の意思表示は有効であり、本件業務委託契約は解除によって終了したということができる。
そして、未だ行われてない業務のために事前に支払った業務委託料について、当該業務が行われなかったまま契約が終了したのであれば、その支払った前払い分について、委託者が返還を求めることができるのは当然である。
したがって、原告は、被告に対し、本件業務委託契約の解除に伴う原状回復請求として、既に支払った前払い分の業務委託料の返還を求めることができるというべきである。

5:まとめ

以上によれば、その余について検討するまでもなく、原告の請求に理由があるということになる。

第6 結論

以上のとおり、原告の請求には理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。

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